AR等を利用した文化財の情報発信
名古屋市教育委員会では、民俗文化財の保存団体の皆さんとともに文化財名古屋保存活用実行委員会を結成し、市内に残された文化財の情報発信を進めています。
その中で、現在調査活動を行っている市内の山車行事を中心として、AR(拡張現実)を活用した情報発信を検討しています。名古屋三大祭りゆかりの神社や緑区有松の歴史的建造物群で引かれる山車祭礼の様子を紹介する内容のアプリを開発・検証しています。
山車祭礼はじめとした民俗文化財は、現地に行ってみていただくのが一番理解しやすいのですが、そのほとんどが年に一度、中には5年に一度しか開催されないものもありあます。ふっと立ち寄った町で行われている様子を、お祭り当日でなくても体感・理解できるしくみとしてAR・VR(仮想現実)の可能性を検証しています。
平成27年度には、地元で実施にお祭りに関わっている方々のお話を聞きながら、アプリを使っていいただく文化財見学会を開催したり、ショッピングセンターのイベント会場でアプリを使っていただき、使用感を聞き取ったりしてきました。
今後ともいろいろな世代の皆さんにお楽しみいただけるように改善するとともに、公開に向けた準備作業も進めていきたいと思います。


山車を知るための情報
開発中のアプリケーションの中で紹介するデータは以下のようなものです。
山車の3Dモデル
お祭り当日の山車は幕できれいに飾り付けられます。
一方で複雑に組み合わせられた山車本体の構造を見ることはできません。
そのため3次元のモデルを作成し、タブレット上でくるくる回せるデータを作りました。

お祭りの様子を撮影した映像・画像
一年に1度しか見られない祭礼当日の様子を、映像や写真で紹介します。
お囃子や周辺の喧騒など、祭礼当日の様子が伝わってきます。
現地で視聴することによって臨場感を感じていただけるはずです。
有松祭礼
1分10秒(12.8MB)(Windows Media Video形式)
有松猩々
34秒(6.8MB)(Windows Media Video形式)
笠寺猩々
40秒(8.3MB)(Windows Media Video形式)
若宮八幡福禄寿車
1分16秒(14.9MB)(Windows Media Video形式)
お祭りの道具の解説・特徴の紹介
実施にお祭り当日に見学に出かけても、予備知識がないと行事の意味も分かりません。
祭礼の解説や道具の名称や働きを紹介することで、見学の楽しみも倍増するはずです。
1. 名古屋型の山車
名古屋型は、二層造り(上山と下山)の構造にからくり人形を伴う型式の山車です。
唐破風の屋根を細い四本柱で支え、四本柱の間に壁はなく、吹き抜けとなっています。




2. 上山(かみやま)
上山の四本柱の中には主役のからくり人形が置かれからくりが上演されます。正面の一段下がった位置に前棚(まえだな)を作り付け、そこに麾振り人形(前人形・幣振り人形)が載せられています。屋根は下から見上げて輝くように折り上げ天井とよばれる形状になっています。



3. せり上げ装置
山車内部中央にあるセリアゲ車という滑車に綱をかけ、四本柱と固定されている枠を上げ下げすることによって、屋根の昇降ができるようになっています。この仕組みはかつて名古屋城に出入りする際に御門を通り抜けるために必要な仕掛けであったといわれています。



4. 高欄(こうらん)
上山と前棚周囲には周囲に高欄をめぐらせています。高欄は漆が施され、随所に金工細工が施されています。高欄には部分的に欄間などもはめ込まれ、山車の上部を彩っています。中にはサンゴなどを用いて飾られた山車もあります。名古屋仏壇等の伝統産業の技術が生かされています。



5. 車輪
車輪は外輪(山車本体より外側に車輪がつけられていること)で、人が車輪に巻き込まれないように輪掛(わがけ)けがつけられています。車輪は現在では合成材で作られていますが、以前はクスノキの輪切りにしたものがつかわれていたといわれています。


6. 楫棒
楫棒(かじぼう)は綱で引く山車を街中で小回りさせるための大事な部分です。お祭りの前には、楫棒を本体に締め付ける「棒締」が行われます。楫棒(かじぼう)を担いで車を回す「車切り」は、祭りの見せ場です。3トンを超える山車と15人以上の人を持ち上げます。



7. 幕
下山は大幕で覆われ、上山高欄の下には水引幕が下げられています。名古屋城下の山車の大部分は、赤い羊毛生地をベースにした「猩々幕」と呼ばれるものが多いです。町内の名称が記されたものが多いですが、中には金糸で華やかな刺繍が施されるものもあります。





8. からくり
からくりが載せられるのが名古屋の山車の大きな特徴です。名古屋城下には多くの職人が住まい腕を競っていました。現在でもその技術が息づいており、修繕や新調にも地元の職人が活躍しています。


